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告知と放談の部屋☆ 放81「角川社長と対面」 [趣味・カルチャー]

  

このところの話は、宇宙皇子の一巻目である「はるかに遠き都よ」の原稿を渡してから発売されるまでの三か月間のお話です。結構新しい生活が始まったために、一日一日細かなことで、何が、いつ起こったのかきちんと仕分けしてお話することがでそうもありません。みなさんには大体その頃こんなことがあったのだなと思って読んで頂ければ有難いと思います。


長い映像の世界での生活から、これまで遠くからしか見ていなかった小説という異世界へ、ある日突然飛び込むことになってしまったので、多少は準備をしつつあったとはいっても、いよいよ正式に仕掛かることになると、これまでとは大分違ったことを体験しなくてはならなくなりました。しかし実際に仕掛かったあたりからは、やはり原稿用紙に向かう気持から変わってきていました。大体これまで使っていた200字詰めの原稿用紙から400字詰めのものに変わりましたので、それと向き合う気分も変わりました。当初はあまり落ち着いた気分にはなれないでいましたが、一枚一枚執筆しつづけていくうちにかなり落ち着いた雰囲気に慣れていきました。


そんなある日のことです。A編集長から社長が会いたいといっているという連絡が入りました。世間的にはその評価はいろいろでしたが、このところ角川春樹社長の独特な生き方がさまざまなメデイアで取り上げられています。一度はお会いしたいと思う青年社長はありました。小説の発売と同時にそれを映画化したものを公開して、その相乗効果でかなりの成果を上げています。森村誠一氏の「人間の証明」という小説の営業展開がかなり派手であったことから、何かにつけて注目を浴びていらっしゃる存在でした。私はこの機会に、「宇宙皇子」という作品で何がしたいのかということを説明して、理解して頂こうと考えました。


目下社長が取り組んでいる作品はかなり現代的なものが中心になってはいるのですが、一方では日本の古代文化への関心も高くて、わざわざ古代の葦船のようなものを作って、同志たちと共に韓国を目指して九州から漕ぎ渡ろうとしていることがマスコミで騒がれていたりしていましたから、いつかで会ってみたいと思っていたところでした。


本社の編集室の奥にある社長室へ案内されましたが、精悍な姿の社長は大変気持ちよく迎えて下さると、特別気張ったところもなく実に気さくに話しかけられたのでした。


多少緊張気味であった私もすっかり解放されて対坐することができたのでした。


 どうやら社長はすでに私の原稿に目を通していらっしゃったようで、いきなり古代という時代についての興味を示されてこられたので、私もすっかり気を許して話し始めました。前述しましたが、当時社長は話題の多い方で古代に関しての関心があるということはさまざまな雑誌で紹介されていましたから、「宇宙皇子」に関してはどんな反応をされるのかとかなり緊張しておりましたが、初対面にしては珍しいくらいに通い合うものを感じる安心感が生まれました。実に通常の対話をするような雰囲気で、気持ちの交歓をすることができたのでした。


私は出版を前にして、「宇宙皇子」の発想の原点となったのはどんなことは始まりであったのかということについて話し始めました。日本の古典である「今昔物語」と西欧のダンテが書いた「神曲」という音楽劇三冊の話です。


             「日本古典文学大系・今昔物語」1.jpg 「神曲・煉獄編」1.jpg 「神曲・地獄編」1.jpg 「神曲・天国編」1.jpg


神の子として生まれた少年が、壬申の乱に駆り出されて戦死してしまった父に代わって、悲惨な暮らしに耐えながら暮らしている農民たちのために、権力を振るって支配する高貴な人々への挑戦を始めるのですが、小子辺(ちいさこべ)・・・宇宙皇子今昔物語に描かれている超能力者である役行者を師として仰ぎ、やがて不動明王に化身して苦界の現世から極楽浄土の来世までのさまざ異世界を経験しながら再び苦界の地上へ戻ってきて、庶民のために活躍するという、長年温めていた構想熱っぽく説明したのです。


 「神曲」では煉獄に生きる者の姿、地獄に生きる者の姿を描きながら、最後に楽園である天国に生きる者の至上の姿を描いて終わるのですが、私はこれとは違った構想を組み立てているのだと説明をしたのです。つまり苦悩する農民のために、宇宙皇子自身が不動明王の化身となって苦界といわれる現世から旅立ち、地獄・煉獄を知りながらやがて楽園である極楽浄土の天国へたどり着くのですが、人間にとって至上の世界を知ったところで再び苦界の地上へ突き落され、庶民のために働くようになるという話になるのですと説明したのです。


社長は笑顔で頷きながら大変乗って下さいましたが、「それでは大変な数の本を書かなくてはなりませんよ」とおっしゃるのです。


私はかつて集英社と出版の話をした時、すべて三冊で終わって欲しいといわれた経験があったことから、多少遠慮しながら「それぞれ異世界を辿るので10巻は必要になりそうなのです」と答えたのです。


ところがそれに対して社長は、「そんな数にこだわる必要はありません。書きたいだけ書けばいいんです」とおっしゃるのです。


あまりにも鷹揚な受け止めかをされたのでびっくりしましたが、あまりの嬉しさに私は、「ひょっとすると50巻ぐらいになるかも知れません」


思わず考えていた勝手な構想を、ぶちまけてしまったのでした。


すると社長は直ぐに、「もし50巻を一巻でも超えることがあったら、100巻ですよ」


釘をさすようにおっしゃるのです。ところが社長はとても冗談とはいえない真顔になって答えられたのでした。


 初対面で確認し合うべきことがすべて話し合えたことも満足しましたが、兎に角どんな話になっても、「頑張って下さい」と励まして下さって、初対面を終えたのでした。


 少なくとも社長とは気持ちの交流が生まれたように思いましたし、今回の出版にはかなり興味を持って下さったように思えました。


 兎に角遠慮気味に言った出版の冊数に対しても、そんなことにこだわらずに書きたいだけ書いて下さいという、思いがけない返答をされたのにはびっくりいたしましたが、


かつて集英社と出版の話になった時に、売れ残りを出さないようにという慎重さで、原則的には三冊で簡潔して下さいという姿勢を崩しませんでした。それで結局「宇宙皇子」の企画は排除されてしまったのでした。しかし集英社はこうした堅実な方針を貫いて会社を守っていたのでしょう。それにしても角川書店の鷹揚な受け止め方には、これから勝負をしたいと思っている作家にとっては、期待と意欲を一気に掻き立てられる体質を持った会社であったと思いました。私はこの日の対面によってますます執筆の意欲に点火されましたが、私のやりたい世界に興味を持って下さったのか、この日を境に社長とは思いがけない親交が始まったのでした。


私はいよいよこれから先は執筆をつづけていくことが保証されたという安心感で、作品世界に没頭していけるようになったのでした。


 


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