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告知と放談の部屋☆ 放82「いのまたむつみさんの危機!」 [趣味・カルチャー]

  

 わずか一、二か月の間のことでしたが、やがてイラストの入った表紙の見本が届けられて、いよいよ戦闘の火ぶたが切られる準備が整ったと思いました。


私の書いたあの原稿から、いのまたむつみさんも出版界という不慣れな世界への参入をすることになったのです。しかし今回のような思いを表紙のイラストとして新書版を飾ることは、業界でも異色のことであったに違いありません。


私はこの表紙にまったく不満はありませんでした。


これまでの彼女の仕事といえば、テレビの「プロレス3四郎」と「ウインダリア」での仕事だけですから、現代的なタッチで描かれた作品ばかりですから、日本の古代史の中に登場して活躍する少年や、その仲間となる人物たちを書き分けられるだろうかと、多少心配になることもあるにはあったのですが、私はこの表紙にまったく不満はありませんでしたし、恐らくこれからの時代ではきっとこうした若い人の繰り出すイラストの世界が中心になるという思いでいました。


カナメプロの社長から聞いた、いのまたむつみさんがアニメーションの世界から引退したいという思いは消えてきたかも知れません。私も彼女がもっと活躍する場が広げられるのではないかと満足感を覚えていたのでした。しかしそれはあくまでも長いこと映像の世界で仕事をしてきた者の感想であって、まったく出版界の空気を無視した勝手な感想であったのでした。それだけに「宇宙皇子」は無事に出版されることになるのかどうか、まだ大変不安な状態ではあったのです。


                      「プラレス3四郎・DVD1」1.jpg 「ウインダリアビデオ」1.jpg 「宇宙皇子・新書1」1.jpg


それは間もなく角川書店の内部から始まったのですが、私が作品のイラストレイターに起用したいと推薦した、いのまたむつみさんのイラストについてある部署からくすぶり始めた問題があったのです。恐らく出版の戦略を協議する会議の中で、成人を対象にした新書版を発売してきた角川書店です。スタートの森村誠一氏の「人間の証明」は映画の公開と同時であったということもあって、大変な評判になって好調な売れ行きを示しましたが、それらの表紙を飾っていたのは、当時の第一人者と言わるイラストレーターであったのです。角川から発売されてきた新書版の小説の表紙は、殆どその人が書いているイラストが使われていたのです。新書版の表紙のイラストは当時の一流の方の描く表紙絵で埋まっていたといってもいいでしょう。そんなところへ突然アニメーション畑のいのまたむつみさんのイラストが、「宇宙皇子」の表紙を飾ることになったのです。それはこれまでの雰囲気とあまりにも違いすぎます。出版の準備が進められていくうちに、どこかの部署から持ち上がってきた野でしょう。


 「こんな絵でいいのか」


 恐らく拒否反応を示したのは、営業担当からであったかも知れません。さまざまな書店周りをして営業展開に動き出したところ、これまでの新書版のあまりにも雰囲気と違い過ぎて、書店からでも疑問に近い言葉が投げかけられたのかもしれません。確かにまだいのまたむつみさんは無名に近い存在です。同じころに小説のイラストを描くといっても、アニメーターの描く表紙絵はかなり格下の本の表紙に限られていました。営業に走り回る者にとってはかなり面倒な本を売ることになるわけで、当然ですが会議の席上で問題提起をしてきたに違いありません。そんなところへ予想もしないいのまたさんのイラストが登場したのです。びっくりするのも当然です。というよりは拒絶反応を起こしてしまったのかもしれません。成人読者を狙って作った新書という判型なのに、これまでやってきた販売足品に水を注すことにならないかということです。一気にこれは問題だということになって、彼女は外されてしまうことになりそう出合ったのです。少なくとも私は、彼女の実力を評価したからこそ自分の記念すべき角川書店での勝負作品に、登場して貰うことにしたのです。簡単に社内の空気が否定的だとはいっても、そんな空気に圧されて彼女をひっこめるようなことはできません。


 「今にこうしたイラストが、読者から歓迎される時代が来るはずです」


 必死で編集の上層部に、営業の上層部に訴えていったのです。


 角川春樹社長の現在行っている戦略から、かなり革新的なものを感じていた私は、それに期待して、いのまたむつみさんの援護を訴えたのでした。


 その頃のいのまたむつみさんが、プロダクションの中でどんな立場にあったのかということについては殆ど知りませんでしたが、「プラレス3四郎」から「ウインダリア」の作画で一生懸命に協力してくれていましたので、私は兎に角「宇宙皇子」で一気に彼女がスタートなってくれるのを願いつづけていましたが、有難かったのは、その時私を後押ししてくれたのが若い新人編集者たちでした。


 私は時代の空気がきっとこうしたイラストを受け入れる状態になりつつあると判断していましたので、遠慮もなく自説を強引に訴えていったのです。もしそれが叶わないような事態になってしまったら、作家として角川書店での仕事をすることは出来なくなるでしょう。何日か前に社長と大変いい出会いをしたところでしたが、思わずイラスト問題で、大変緊張させられることになってしまったのでした。


原稿を渡してから発売予定の6月まで三か月しかないというわずかな時間の流れの中で、さまざまな体験をしたものです。確かに角川書店は、これまで作家としての地位を確立していらっしゃる実力者たちの小説を出版してきたところです。恐らくそうした編集部あたりからくすぶり始めた問題だったのかも知れません。それまではそれらの問題提起に対しては編集担当の編集長A氏が、立ち向かっていたのですがついにそれだけではすまない勢いになってきてしまい、私も動員されて営業担当の部長を始め上層部に対して、いのまたむつみを起用した意味について、思うことを力説することになったのでした。まだまだこの世界ではまったくの新人でしかない私は、まるで実績を誇る作家のような自信で訴え続けました。時代はこうしたイラストを求めてきていることに気付かずにいる編集部に危険を感じると、これまでテレビの最前線戦で掴んでいた、時代の要求している感性ということについての感想を訴えつづけたのでした。


「これからは絶対にこうした感性のイラストが尊重される時代になるはずです」


私はかなり自信を持って説明したつもりですが、かなり大胆で、危険を伴う発言をしていたものです。しかしその日の会議から、ようやくイラストについての疑問をいう社員はみあたらなくなりました。会議の様子について新人の編集者で、「宇宙皇子」の担当として決まったS君、Y君、T君といった若者たちは、私の力説したことについて賛同してくれ、上層部の考える時代の捉え方とはまったく違った発想をする私についてきてくれるようになったのでした。


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