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思い出作品の部屋☆ 思8☆ 思8 「宇宙皇子スタート快調です」 [趣味・カルチャー]

  

 出版が始まる前までは、兎に角「売れるのか、売れないのか」まったく姿の見えない読者という存在が頭から離れなくて、まったく落ち着かない日々を過ごしましたので、発売当日はとてもじっとしていることは出来ませんでした。兎に角書店へ出かけて行って、実際に本を買うお客さんの実像を目撃したいという気持になっていました。確か都心の大きな書店へ行ったと思うのですが、何といってももう30年近くも前のことですから、その書店がどこであったのかも思い出すことができません。


1984年6月は私の誕生月でしたので、これは当初から編集長にお願いして決めていたことでした。地上編宇宙皇子の第一巻である、「はるかに遠い都よ」は、ついに日本全国の書店で発売されることになったのでした。


                                                「宇宙皇子・新書1」1.jpg


  


当然のことですが、その日の新聞の朝刊には他の人の新刊と並んで、角川書店の新刊本の広告が載せられていました。起き抜けに何誌もの新聞を買ってきて、はじめて世間に対して自己主張をしている広告を確認しました。映像で見る藤川桂介と活字の広告に見る藤川桂介には、なぜかそこに重量感の差が出たような気がしました。あとは実際に書店で、拙作の本を購入していく読者の姿を確認することです。


 一体彼らはどんな反応を示すのだろうか・・・。


いささか緊張しながらも、極力平静を装って、大きな書店へ出向いて行きました。しかし書店は静まり返っていて、読者が入り乱れて新刊本を購入するなどという光景はありません。嫌でも真っ先に見たのはレジのところでした。書店さんも協力して下さったのでしょう。そこには「宇宙皇子」が目立つように展示されていましたが、まだそれに手を伸ばして購入していく客はないようです。いわゆる新刊が展示されている平場には、十数冊が数列も積んでありますが、まだ時間が早いということもあって、積まれた山から本が買われていった形跡がありません。夢中で書いた作家としては、その作品がそこに展示されているだけでも、これまでとは違った感慨がありましたが、しかしそれらにまったく手を伸ばして取り上げていくお客の姿が見届けられなかったのは、新たな不安となってつきまとい始めたのでした。暫く店内を一周しながら終始レジのあたりの動きを観察するのですが、特に変わった動きは見られません。


出版界での販売の成否ということについては。その判断の基準となるデーターを持っていませんから、その日の動きについてはまったく判断ができません。映像時代のように、放送になればその直後から、その評判が伝わってくるものですが、出版に関しては、まったく静まり返ったままです。いずれ数日経過したところで、編集長に判断を聞いてみるしかありません。しかしその日の収穫としては、私の三番目の妹が電話をかけてきて、勤めている銀座付近の書店で十冊も購入してくれたということですので、その調子だときっと大変な売り上げを記録するのではないかと思ったものです。翌日編集長から電話があった時に、その話をしたのですが彼はその話にはまったく興味を示しませんでした。


 「なぜだ!?」


 たまたま一人の人が10冊も買ってくれたことはいいことですが、その程度のことでは、決してベストセラーになるということは言えないということだったということです。


 どうやら発売した図書の売れ行きの予想は、出版界独特のやり方で行うというのです。


つまり角川書店が指定した書店があって、そこで三日間のうちで何冊売れるかによってその図書のその後の動きが判断できるというのです。角川ではその調査店で行う調査を、「三日統計」「十日間統計」といって、販売の参考にしているというのでした。その調査店での記録はたとえ一冊でもほとんどその後の展開が読めるというのです。編集長A氏は自信を持って答えてくれたのでした。どうしてそのような統計でその図書の売れ行きが判断できるのかまったく信じられません。案の定指定の調査店で二冊の本がはけたのですが、わが「はるかに遠き都よ」は快調な売れ行きは記録となって、短期間に重版を繰り返していったのです。


映像時代にも毎週ビデオリサーチ・ニールセンによる視聴率の結果が出ていましたが、その計器が一般家庭にセットされているという噂は聞いていましたが、果たしてそれがどういう家庭なのかまったく明らかにはなっていません。角川書店が調査店としている書店が、どこの何という書店なのかはまったく秘密にされていて一般的にはまったくそんなものが存在しているということすら知りません。恐らく上層部の人たちだけが、そこでの結果を知って次の戦略を練ることになるのでしょう。もうこうなるとイラストに対する不安も、古代という時代背景についての疑問も、まったく消滅してしまいました。きっとイラストはもちろんですが古代という作品世界についても、結果として受け入れざるを得なくなってしまったのでしょう。たちまち社長から全軍に指示が下されて、「宇宙皇子」に対する支援が決定したのでした。その結果わたしは直ぐに次の話を書くことになり、八月を目指して出版ということになったのでした。また400枚以上の原稿を一か月以内に仕上げて、その準備に入っていったのでした。2巻目である「明日香風よ挽歌を」も、夏休みの商戦で同じような結果が出てきました。角川書店からはここで休んでしまわないで、一気に出版を考えて欲しいという要望が入りました。これまでの多くの作家は、大きなヒットが出せるとそこで次の作品を書かなくなってしまうというのが通例で、そのために折角盛り上がってきた人気の機運を降下させてしまうことが多いというのです。特に営業部からはそうならないで欲しいという要望が出されましたが、私自身も映像から活字の世界へ転身が叶うかどうかの瀬戸際です。一気に勝負を決めてしまおうという決心でいたところです。直ちに第三巻目の「妖かしの道地獄道」の執筆にかかっていったのでした。


                                「宇宙皇子・新書2」1.jpg 「宇宙皇子・新書3」1.jpg


八月の夏休みの商戦も見事に制覇してしまい、その勢いを決定的にするために10月の毎年行われる出版界の秋の商戦である読書週間に備えて出版されましたが、予想通り一巻目、二巻目と積み上げてきた発行部数はうなぎのぼりとなっていきました。まさにベストセラーを連打していったのです。その頃からついに若い読者からは、「月刊宇宙皇子」という異称を生み出してしまうほどになっていました。しかし私自身はそんなことが言われているということもまったく知らずに、夢中で次の作品の準備にかかっていたのでした。


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