SSブログ

閑話 嵯峨天皇現代を斬る その一の六 [趣味・カルチャー]

      第一章「卓越した指導者といわれるために」(六)


      為政者の課題・「民への気遣いはいつも」


    今回は弘仁十四年(八二三)のことです。


 嵯峨天皇は右大臣の藤原冬嗣ふゆつぐ冷然院れいぜんいんへ呼び、「朕は位を皇太弟(大伴親王)に譲ろうと思う(日本後紀)


かねてからの計画を伝えました。


そして間もなく冷然院正殿に大伴親王をお招きになられると、あれると、手を引きながら、これまでの在位に当った十四年という治世に当った経緯を述べられた後で、こうお話されたのです。


 「朕は少ない徳乍ら、十四年間在位してきた。皇太弟と年齢が同じである。朕は人を見る才能がとぼしいとは言え、皇太弟と長年一緒に過ごしてきており、皇太弟が賢明で仁と孝の特に優れていることは、よく判っている。そこで皇位を皇太弟に譲ろうと思いながら、すでに数年となっている。今、かねての志を果そうと思うのであり、よく理解してほしい」


 勿論、大伴親王は拒否をするのですが、天皇の真剣さには背けなくなり、ついに第五十三代の淳和天皇となられたのでした。


これは皇統を巡って無用のいさかいをしなくてはならなかった過去を思い出して、今後嵯峨天皇の系列の親王と、大伴親王の系列の親王とで、交代に政庁を率いていってもらおうという、若い時からの決心であり、大伴親王にも承知して貰っていたはずです。彼は直ちに淳和天皇として践祚すると、嵯峨太上天皇の清冽な思いを引きついていくことになられたのです。


 まだ嵯峨太政天皇は四十歳を前にしたばかりで、勢いを持ったまま譲位されましたので、政庁にはまったく心配は存在してはいません。新天皇も民への気遣いには、先帝と同じ思いで向き合おうとしていらっしゃったからです。


 嵯峨天皇は在位十四年ほどで太上天皇となりましたが、これは皇統を巡って無用のいさかいをなくそうという思いから、今後嵯峨天皇の系列の親王と、大伴親王の系列の親王とで、交代に政庁を率いていってもらおうという、若い時からの決心であり、大伴親王にも承知して貰っていました。彼は直ちに淳和天皇として践祚すると、嵯峨太上天皇の清冽な思いを引きついていかれることになりました。


 まだ嵯峨太政天皇は四十歳を前にしたばかりの勢いを持ったままの状態での譲位でしたので、政庁にはまったく心配は存在してはいません。


新天皇も民への気遣いには、先帝と同じ思いで向き合おうとしていらっしゃいました。しかし・・・


為政者・淳和天皇


弘仁十四年(八二三)四月二十七日のこと


発生した問題とは


 百姓からの生活が容易ならない状態という訴えがあって、新たな天皇も様々な配慮をしなくてはなりません。救助を与える側、救助を受ける側のそれぞれの思いには、古代も現代もなく、永遠の課題が横たわっているように思えてなりません。


 統治する者と統治される者との信頼感・安定感ということでは、現代に生きる我々と政府との信頼感というものは、平安時代のそれとは、かなり距離感があるような気がいたします。


 淳和天皇(じゅんなてんのう)が嵯峨天皇から譲位されて即位されたたばかりことですが、天皇は年齢的にはすでに三十七歳に達しておりましたので、長いこと嵯峨の皇太子として仕えてきたということもあって、職務をこなすのに不足はない状態なのですが、こうして為政の頂点に立って臣民を率いていくには、まだその気構えが出来ているとはいえません。


かなり学ぶということでは大変熱心な方でしたし、才覚という点ではかなり優れたものをお持ちでしたが、しかし臣民の信頼感ということでは、とても嵯峨太上天皇とは比べようがありませんでした。存在感が違い過ぎるのです。


 (つまび)らかに従前の帝王を見ると、それぞれ事情に因んで名前を立て、時に従って号を変えている。嵯峨太上天皇は、見たり会ったりすれば、利益を与える祥気を漂わせながら、皇位に就き適切な治政を行って、学問や教化を推進し、軍事の功績を上げた。あらゆる場所で人々が嵯峨太上天皇を天子として喜んで推戴し、治政を謳歌する声は全国に聞こえた。物事を成し遂げても誇らず、安住せず、皇位に執着していない。全世界に恩徳を施し、その徳の高いことはどこの国も及ばないほどである。高い身分でありながら、謙遜して人臣と同列につくと仰せになっている」(日本後紀)


天皇は先帝を太上天皇、皇后に太皇太后(だいこうたいごう)と呼ぶことにしようと決めました。天皇は民に対しても、官人に対しても、どう向かい合えばいいのかということについて、まだ判らないことも多かったのです。


勿論、先帝を越えた為政者になろうという気概は持っていらっしゃいましたが、即位前には何度か嵯峨太上天皇に問い掛けられたことがありました。


 嵯峨太上天皇はこうお応えになられました。


「天地が開闢(かいびゃく)すると、天子が置かれるようになりましたが、天命を受けて天子となる者は定まっているわけではなく、徳のある者を助けて天子としているのであり、天は賢く才能のある者を天子として選ぶものであります。私は(かたじけな)くも徳が少ない身ながら天皇として十余年政務を執り、朽ちた手綱で馬を御し、薄氷を踏む思いできました。しかし皇位を陛下(淳和(じゅんな)天皇(てんのう))に譲り、長い間抱いてきた譲位を果たすことができました」(日本後紀)


為政の始まりに当たって、天皇として幾多の山稜へ使いを遣わして即位の報告を行いながら、太上天皇に対してこうお応えしました。


(あした)は君主であった人が、(ゆうべ)に人臣となるようなことがありましょうか。誠に人を教諭し俗を正すとなれば礼が伴わなくてはならず、君臣の上下は礼に従わなければ定まらないものです。陛下は皇太子から即位し、天下に君臨して十二年を超えています。人民は陛下の実力を知り、風俗は教化に馴染んでいます」(日本後紀)


 すると太上天皇からは、次のような文書が寄せられました。


『天皇として天下を治めるには賢い人の助力を得て平安に治めることができる』


というのです。


確かに嵯峨太上天皇には、藤原冬嗣という有能な太政官をおいて為政を動かしていました。淳和天皇はまだとても太上天皇のようにはいきませんが、親王たちをはじめとして、王・諸臣らの援助によって天下の政事を平安に遂行できると思うので、正しく素直な心でみなの者が朝廷に助力せよと、協力を促したのでした。


為政者はどう対処したのか


天皇は兎に角身近な者たちの協力を訴えましたが、それと同時に平安京の左右京・五畿内の(かん)(妻を失った男、夫を失った女)・()(ひとり者)・()(両親のない子)・(どく)(助ける者がいない者)で自活できない者たちに物を恵み与え、諸国の飢えている公民に貸し付けてある、借貸稲の未納分はすべて免除するとおっしゃったのでした。敢えてこのようなことを取り上げるのも、現代の為政者に通じる問題が潜んでいるように思えるからなのです。しかし現代のような時代で平安時代と同じようなことをしようとすると、不公平問題とぶつかってしまいます。貧しい家庭とはどんな状態の家庭にたいして言うのかということについて、きっちりとした基準を決めておかないと、差別的な問題とぶつかってしまいます。


現代でも生活に困窮する家庭の救済ということの援助が行なわれるようになっては来ていますが、最近になってやっと本格的に動き始めているという状態です。古代との時間を考えると、何という長い時間がかかったものだなと思えたりいたします。


 まだまだ為政者と国民との関係ということでは、とても信頼感で繋がってはいないように思えてなりません。


温故知新(up・to・date)でひと言


 現代は古代とは比べようもなく、困窮者に対して福祉の手が差し伸べられているように思われるのですが、それでもこの程度では足りないという不満を述べる報道をよく見かけます。国としての規模が大きくなっていることや経済的な規模が広がっている現代だからこそ出てくる不満なのですが、古代で救済される人々との暮らし向きは、とても現代のそれとは比べようもありません。嵯峨天皇、淳和天皇が鰥・寡・孤・独などに救済の手をさしのべたのは、それなりに救助をさしのべる必要に迫られている人々であったはずです。現代のそれらの環境にある人たちとは比べようもありません。もっとその規模を広げて欲しいとは思っても、それまでの追い詰められた環境からすれば、もっと援助して欲しいとはいえなかったでしょう。為政者として人の上に立つ時には、まずこれから共に働くことになる人々に、期待感を持って頂かなくてはなりません。内閣総理大臣にしても、道を究めて、広く道理に通じて全体を公平に見て、正しい判断を下して貰いたいものです。


古い言葉に「達人大観(たつじんたいかん)というものがありますが、それを実践して欲しいし国民の信任を得るためには、ただ権力を誇示するだけでなく、道を究め、広く道理に通じた人は、決して部分に捉われずに、全体を公平に見て正しい判断を下すといいます。多くの人の心を集める「人心収攬(じんしんしゅうらん)のためには、国民に心ある為政者としての思いを真摯に訴えて欲しいし、「外寛内明(がいかんないめい)ということを知っておいて頂きたいものです。つまり外部に対しては寛大、寛容に接し、自分自身はよく顧みて、明晰に己を知り、身を慎むということです。どうでしょうか。それがリーダーといわれる人の心構えというものです。


 


nice!(0)  コメント(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。