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閑話 嵯峨天皇現代を斬る その二の三 [趣味・カルチャー]

 

      第二章 「安穏な暮らしを保つために」()


        為政者の課題・「対岸の火事に学ぼう」


弘仁十年(八一九)です。


嵯峨天皇は即位してから十年経過していましたが、決して平坦な道筋ではありませんでした。しかし有能な腹心の藤原冬嗣(ふゆつぐ)に助けられて、政庁を危うくするような事態にはならずに運営して来られました。


嵯峨天皇は先進の国の先達が残した図書から、様々な知識を得ていらっしゃいましたが、今異国では何が起こっているのかというような、生きた情報を得ることについては簡単に手に入れることは難しかったはずです。


そんなところへ大唐(えつ)州(ベトナムの国境)の人である周光翰(しゅうこうかん)言升則(げんしょうそく)という者たちが、新羅(しらぎ)船に乗って到来いたします。そして彼らは、政庁にとっては通常得られないような唐国の情報をもたらすのです。


「三年前の弘仁七年(八一六年)頃のこと、節度使(せつどし)(唐五代の軍団司令官)の李師道(りしどう)が、兵馬五十万という精鋭を率いて反乱を起こしたというのです。唐十一代皇帝の憲宗は各地の兵士を集めて討伐しようとしたものの、平定することが出来ずに目下天下騒乱中です」(日本後紀)


こんな情報でした。


その一年前といえば、戊戌(ぼじゅつ)の大疫の年といわれて、天皇はその困難を突破するのに大変苦闘されたばかりです。


そのような時に、もし異国の騒乱が飛び火してきたら、国内の問題も穏やかに治めることが難しくなってしまいます。


幸い目下のところ、政庁の周辺に困難な問題は存在しませんが、こうして異国の状況を知っておくことは、なかなか貴重な情報となるものです。


為政者・嵯峨天皇


弘仁十年(八一九)六月十六日のこと


発生した問題とは


天皇にとっては国を護るためには、絶対に欠かすことが出来ないのが、用心であるということを、改めて印象づけられた新羅船の来訪でした。


 平安京は東西に市が開かれたりして、高貴な者、民、百姓に至るまで、すべての者が入り乱れて、買い物を楽しむようになっていたのですが、どうもこの頃唐国には、反乱があって騒がしい状態になっているという情報がもたらされてきたわけで、天皇は日本国内の安穏な状態に、満足しているわけにはいかないものを感じていました。


 まだ世界の国々の国交が、開かれている時代ではありませんし、近隣の国についても、ごく限られたところとの交流があるだけでしたから、たまたまやって来た異国の者から得る情報には、神経を尖らせることもあったのです。


 目下のところ我が国の政庁の周辺には、困難な問題は存在しませんが、こうして異国の状況を知ることは、国を護るためになかなか得られない貴重な情報です。国を護るためには絶対に欠かせない用心ということになります。仮にその情報が唐国の事変であったとしても、それがどんな形で我が国へ飛び火してくるかもしれないのです。


為政の指揮を執る天皇は、神経を尖らせても止むを得ません。しかしその頃、平安京では数十日もの間厳しい炎暑がつづき、旱魃(かんばつ)が起ってしまっていたのです。


降雨を願って伊勢神宮、井上(いのえ)内親王の宇智陵(うちりょう)へ使者を派遣しました


その祈りが通じたのか、京には暴風雨をともなって白龍(はくりゅう)が現れ民の家屋を破壊するという事件があったりしたのです。


政庁の者にとっては、心理的に嫌なものを感じざるを得ません。国内の問題を解決しなければならない時だっただけに、異国に起こる事件にも神経を使わなくてはならなかったのです。それがいつ我が国に影響を及ぼすことになるかも知れないからです。気持ちを引き締めなくてはなりませんでした。


為政者はどう対処したのか


近隣の国の様子にも目配せしながら、国内の問題である炎暑と旱魃が数十日も続き、ほどよい降雨を見ていないのです。〈略〉そこで十三大寺と大和国の定額諸寺の常住の僧侶に、それぞれの寺で三日間「大般若経」を転読させようとしています。適当な雨を願ってのことです。


 同じ頃ですが、政庁では公卿が意見を交わしていました 


 「倉庫令では「官倉の欠損分を責任者から徴収するに際し、納入責任者が在任中は本蔵に納れ、離任している場合は転任先ないし本貫(ほんかん)(郷里)において納入することを認める」と定めていますが、今畿内の国司は偏にこの令条により、納入せねばならない欠損分をみな転任先の外国(畿外)で填納しています。ところで畿内には京に近接していて、そこの稲穀は京に関わる様々な用途に費用されています。それだけでなく稲の値段を見ますと、畿内と畿外では大きく相違し、畿内の方が高価となっています。このような事情がありますのに、畿内で失われた分を畿外で填納するのは、まことに深刻な弊害となっています。伏して、今後は、畿内の欠損を畿外で埋め合わせることを停止しますよう。要望します」(日本後紀)


天皇はそれを認めました。


 国内での細かなことでの手当てを、しなくてはならないことが起ってきています 


「安芸国は土地が痩せていて、田の品等は下下である。このため、百姓は豊作であっても貯えを有するに至っていない。このため、去る大同三年に六年間を限り国内の耕作田の六分を得田、四分を損田として田租を収納することにした。今その六年の年限が過ぎたが、衰弊した民はまだ十分となっていない。そこで更に四年間の延長を行え。(大同三年九月庚子条参照。安芸国では、弘仁五年に不四得六制の延長が行われ、本日条で再度の延長が行われているらしい)(日本後紀)


 国内に起こる違和感の解消に神経を使いながら、異国に起こる小さな出来事が、いつ飛び火してくるかしれないのです。とても無関心ではいられないはずです。


現代ではさまざまな方法を講じて、他国の情報を得るように努力はしていると思うのですが、異国人の来訪が唯一の情報源であった平安時代とはまったく違っています。


スケールの広がり、情況の複雑さということでも、とても古代のそれとは比べようもありません。それだけ国際関係には神経を使うことになっているはずです。情報問題に関しては、古代だから、現代だからと、関心の違いを言って済ませる問題ではありません。むしろこのような事件があった時を利用して、近隣諸国との関係についても、これまでとは違った気構えで考えておく必要があります。特に日本は国の目指す方向の違う国が、ごく近くに存在していますから、そんな環境を考えると、安定を保つということは至難の業です。


 平安時代のように、他国の情報は殆ど実際に行って見るか、こうしてやって来た者によってもたらされる情報以外には、他国の様子を知る機会はまったく存在しませんでした。


現代ではフェイクニュースと呼ばれる偽情報も含めて、インターネットなどという情報網を使って、世界中に飛び交います。あとは受け手の判断による、取捨選択次第という時代になってきています。それだけ為政者は神経を使わなくてはならないでしょう。判断を間違ってしまったら、命取りになってしまいます。


それがどこであろうと、異国で起こっていることだからといって、無関心でいることは許されません。その不用心が大変危険な火種になってしまうかも知れないのです。


 日常生活の中で起こる「おれおれ詐欺」という問題がそうです。


あれは被害にあっている人の不用心が原因ですよなどといって、笑っている場合ではありません。私が家と親しい関係にあった方の中で、まさかと思える人が、危うく数百万円にもなる金銭を用意して、相手に渡してしまいそうになったケースがあるのです。幸い最後の段階で親族が現われて、お金の受取人に渡さずに済んだという話をしに来てくれましたが、その方は確かにしっかりした方でしたから、まさかこの人が・・・信じられないことでした。


自分は大丈夫と思っていても、用心を越えた巧妙なやり方で詐欺を仕掛けて来ることが多いのです。飛び交い情報についても、私は引っかからないという過信が被害者になってしまうかもしれません。


温故知新(up・to・date)でひと言


現代は情報を如何に活かしていくかということを、考えておかないといけない時代です。


私だけは絶対にやられないという変な自信はもたないことです。その自信過剰が、逆効果となってしまうような神経戦となって、相手のぺースに乗せられてしまうようです。


日常生活の周辺のことであっても、自分の周辺の状況がどんな風になっているのかということぐらいは、知っておきましよう。そういうことを無視していると、思わぬ落とし穴に堕ちることになってしまいます。現代は親しい人からもたらされる情報についても、その真偽を確認しながら進まなくてはならない、慎重さが必要な時代です。こんな時には昔から先人が残している四字熟語という者があります。その一つに、「他山之石(たざんのいし)というものがあります。他人を参考にして、自分の啓発向上に役立てようということです。他山から出た山石でも砥石として使えば、自分の宝石を磨くのに役立つということから出た言葉のようですが、情報を胸に収めたら、ただそれだけで終わらせないで、我が身の時の素材として活かすくらいの気持ちになっていたいものです。まさに「深謀遠慮(しんぼうえんりょ)という言葉どおり、深く思い巡らして、将来のビジョンまで慎重に慮らなくてはなりません。「改過自新(かいかじしん)ということがありますが、もしミスでもあったらそれを素直に認めて、新たな気持ちで取り組んでいかなくてはならないでしょう。


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