「陰謀!ウンナフカの夜」


 古代でも現代でも、月夜にはさまざまな事件が起こるようです。


 どうやら月には特別な事件があるようで、満月の夜にはその霊威の影響で、西洋では狼男に変身してしまったり、吸血鬼ドラキュラが暗躍したりということがあったようですが、日本では歌垣(うたがき)というような、男女の出会いの狂宴とも言えるものが開かれたり、那智の港からは観音菩薩の聖地である補陀落を目指して渡海が行われたりと、月夜に関しては人間たちの気持ちを高ぶらせ、狂わせてしまうような奇異な現象が見受けられます。


ところが月の出ない新月の夜にも、不可思議なことが行われていたことを発見しました。


 舞台となったのは、南国の沖縄から更に三百キロ離れたところにある宮古島です。ここにはかねてから海賊が拠点を持っていて、中国の王朝から貴族を通して取引された陶磁器・・・絶対に王朝以外の者が持つことを許されないはずの、黄磁も持ち込まれていた形跡があるのです。


 普通はそのような者が活動できるわけはないはずですが、長いこと非合法なことができたのかというと、案の定そこには隠された真相があったのです。


 海賊が持ち込んだものはいろいろなものがありましたが、その中でも注目されたのは、中国王朝が門外不出といわれていた黄磁です。そのようなものを、宮古島の者が持てるわけはありません。しかし駄目だと言われると欲しくなるのも人間の欲望というものです。庶民には経済的にも手を出せるものではありません。


 結局、そこに登場してくるのが、宮古の政庁を取り仕切る権力者です。


 彼らは海賊と取引をするなどということを、とても公には出来ません。


 そこで考えられたのが、ウンナフカの夜という新月の夜の出来事だったのです。


 政庁の支配者は新月の暗い夜を利用して、ある噂を流布しました。


 つまりこの夜は、神が島へ降臨して、密かに田畑に実りをもたらしてくれるのだというのです。それ故にその神の作業は、絶対に見てはならないということでした。その日は明かりもつけてはならず、暗黒のまま家に閉じこもったままでいなくてはならないというというお触れを出しました。


 もう察しがつくでしょう。


 誰も見ていない暗黒を利用して、権力者と海賊は取引を行ったのです。こんなことでもなかったら、海賊がいつまでも、島に拠点を構えていられるはずはありませんからね。


 不可思議な現象については、何か訳があるかもしれません。


その真相を突き止めようという気持ちは、いつの時代でも忘れてはならないことかもしれません。