「イモリとヤモリ」


私も戦争時代には、茨城県の潮来にある潮来旅館に集団疎開をしていたことがあったのですが、それから暫くして東京大空襲があってから、母と弟、妹を岐阜県の山にある親族の別宅を貸してもらって疎開しましたので、私と長女の妹も、潮来から引き揚げて、岐阜県の山へ移転していた母たちと合流して、いわゆる山里での暮らしを始めることになったのですが、ここでびっくりしたのは、天上に這っている数匹のヤモリを見た時でした。


 しかしこの時はまだその名称ははっきりと知りませんでした。しかもその後で、壁を這っているのも見つけたのですが、どちらにしても気持ちが悪い存在でいた。


 ところがそれから間もなくびっくりしたのは、先刻天井にいたのは「ヤモリ」で壁を這っていたのは「イモリ」だということを教えられたことでした。


 母屋の若者たちはまるで私がびっくりして話すのに興味がなさそうで、あっさりと私たちが天上に這っているものは「ヤモリ」壁を這っているのが「イモリ」だと答えただけでケロッとしていたのです。


 まだ私も小学校4年生の頃の体験です。


 これまでの東京での暮らしとはまったく違った、山の中での暮らしに興味半分、びっくり半分の暮らしをしたことがありました。


 「イモリ」と「ヤモリ」は当然ですが違う存在だったのです。


 「イモリ」は池や沼、小川、田んぼ、井戸などに住んで、ミミズや小さな虫などを食う両生類なのですが、「井戸」を守っているところから「イモリ」と呼ばれるようになったのだそうです。特徴はお腹のあたりが鮮やかな赤で黒い斑点があって、背中は黒か暗褐色です。


 それに対して、「ヤモリ」は家に住み着いているもので、天井や壁、戸袋の中などに張り付いているものなのです。蚊や蛾、ハエ、クモなどの人間にとっては害になる虫などを食べてくれる存在なのです。


 まさに家を守ってくれる「やもり」出会ったのでした。「ヤモリは「イモリ」よりも扁平で、体は暗褐色の斑点がある灰色で爬虫類です。


 大東亜戦争のお陰で、「イモリ」と「ヤモリ」の違いを知った、思い出の一つでした。