「鬼籍って?」


人は亡くなると鬼籍に入られたといいますが、戸籍の類にそのようなものがあるとは思わない人が多いのではないでしょうか。しかし必ず最後はこの戸籍に登録されることになるようです。


どうも言葉の響きの中に「鬼」などという言葉が入ると、ちょっと怖い気持ちになってしまうのでしょうか。それとも昔から桃太郎の「鬼退治」のような話があったためでしょうか、


どうしてもその「オニ」という語感から怖い怪物というイメージが浮かんできてしまいますが、実はこの「オニ」という言葉には「隠れる」という意味があって、その「オニ」という意味があるのですが、つい亡くなると地獄へ落ちるような意味にとってしまいがちになるので、「鬼籍」へ入ったというといやな気分になってしまいます。


中国などでは、もともと「鬼」というのは死者の霊という意味であったといいます。だから当然この世の人ではなくなったので、「鬼籍」へ登録されることになるということです。


 余談になりますが、平安時代の天皇の中に、死んだ後は鬼になるということを信じていらっしゃった方がいらっしゃいました。


 第五十三代淳和天皇(じゅんなてんのう)です。


 淳和七年の五月のある日のことです。


天皇はすでに太上天皇(だじょうてんのう)となっていらいましたが、後を託した皇太子の恒貞親王(つねさだしんのう)を呼んで、死後のことを頼んだ後で、思わぬ話をなさいました。


「私は、人は死ぬと霊は天に上り、空虚となった墳墓には鬼が住み着き、ついには祟りをなし長く災いを残すことになるときいている。死後は骨を砕いて粉にし、山中に散布すべきである」


このように命じられました。


 しかし皇太子は「墳墓も宗廟もなくなってしまったら、私たちはどこを仰ぎみたらいいのでしょうか」と問い返しました。


それには太上天皇からは、「わたしは気力を創出し、結論を出すことが出来ない。あなた方は嵯峨太上天皇に奏上して、決めて頂けばよい」


 そうおっしゃって、やがて享年五十五歳で昇天されたのでした。


 死後は火葬ののちに、遺言通り山へ散骨されたようです。鬼が登場する機会を与えなかったのかもしれません。天上に向われた霊は、綺麗な霊魂となって鬼籍に入られたのかもしれませんね。