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閑話 嵯峨天皇現代を斬る その七の四 [趣味・カルチャー]

第七章「非情な現世を覚悟するために」(四)

為政者の課題・「国に上中下あり」

国を率いていくには、何といって古代の代表的な法律である「律令(りつりょう)」によって決められている、()調(ちょう)(よう)雑徭(ぞうよう)などという税を駆使して、運営していかなくてはなりませんでしたが・・・。

現代では路線価税という税金があって、その時その時の評価によって課税される額が変わっていくものがあります。毎年日本一の高い路線価税ということでは、マスコミで評判となる東京銀座の交差点近くの土地が話題になっていますが、古代ではその土地ということではなく、その国の経済状態・・・つまりどういった生産物があるのかということが判断材料になって、はっきりと差別が行われていました。

それが今回のお話です。

為政者・仁明天皇(にんみょうてんのう)

天長十年(八三三)五月十一日のこと

発生した問題とは

この国によって差別が決められた「律令」というのは、

飛鳥浄御原律令というものがはじまりで、やがてそれにこまかな法例も決められて、桓武天皇の時代になって830年頃に律・令・挌・式という四大法典が整備されたといわれていますが、これに背くと死を覚悟しなくてはならないというので、大変な存在感のあるものでした。

そんなことから、古来「急急如律令」と書かれたお札を玄関に貼って、魔除けにした地方もあるくらいです。

二月に(じゅんな)天皇の体調が優れないことから、嵯峨太上天皇の御子である、皇太子の正良(まさら)親王に譲位して仁明(にんみょう)天皇としたのですが、新天皇は直ちに淳和太上天皇の御子である恒貞(つねさだ)親王を皇太子として、政庁を率いることになりましたが、天皇はまず「律令」によって、生産物の多少によって日本各国を上中下に仕分けしてあるのを参考にして運用していくことにしたのでした。ところがたちまち五月になると、武蔵国から次のような訴えがあったのです。

「武蔵国は管内が広く、国内を旅行するに際し困難が多く、公私の旅行で飢病に陥る者が多数に上ります。そこで、多磨・入間両郡の郡境に悲田院を置き、五軒の屋舎建て、介従五位下当宗宿祢(まさむねのすくね)家主(いえぬし)以下、少目従七位大丘秋主(おおおかのあきぬし)以上の六人がそれぞれの公廨(くげ)(俸禄)を割いて、食料の原資とすることを企画しました。割いた公廨分は帳簿に登載して出挙(利息付貸付)し、その利息を充用することとし、以後は弘仁の国司が引き継ぎ、多用は認めないようにしたいと思います」(続日本後紀)

もちろんその申し入れは認められましたが、間もなく天皇は病にかかってしまいます。しかし天皇は次のようなことをおっしゃいました。

「大和国が『年来穀物が稔らず、規定の公出挙稲(利息を公用にあてる貸付稲)にも欠ける始末ですので、弘仁十年官符に倣い、国内の裕福な人の稲三万八千束を借り上げ、飢民の生活の資にしたいと思います』と言上してきたので、許可し次のように徴した。富豪の畜稲は、貧者の資けとなるものである。聞くところによると先般以来お子馴れているところをみると、役人はそれに相応しくなく、ただ富豪の稲を刈り上げることに務めるのみで、救済に心がけず、このため貧・富共に疲弊しているという。乏絶している者を救済する態勢維持のために、秋の収穫期に到ったならば、特別に使人を遣わして、借用されている稲をすべて返済させよ」(続日本後紀)

為政者はどう対処したのか

ところがその二日後のこと、京および五畿内・七道諸国がみな飢饉となり、天皇は直ちに次のように指示をされた。

 「ひとたび穀物が不足すれば、百姓は不満を抱くものなので、必ず窮乏の者を救済するという原則に従い、併せて勧農を行うことにする。これは病む者を救い、国家の基礎を固め、民の生活を安定させることである。時々に沿革はあっても、これを目的にしている。朕は慎んで天命を受けて人民を労り、世を和平にする方策を立て、仁徳が行き渡り、人々が長命を享受できるようにしたいと思っているが、聞くところによると、昨年は昨年は穀物がはなはだ稔らず、民は飢え、病になっているという。朕は支配者として、臨みながら、民を安らかにすることが出来ていない。静かにこのことを思うと、憮然たるの気持ちの止むことがない。ここに暑季が始まり作物が繁茂する時期に当たり、人民を憐れむ気持ちが無ければ、恐らくは努力が足りないことになろう。京および、畿内・七道諸国の飢民に対して物を恵み与え、その生活を支え(すく)うことができるようにせよ。ことは国司に委ねるので、充分に考慮し、努めて恵みが行き渡るようにし、朕の意とするところに沿うようにせよ(続日本後紀)

 しかし現代の県に等しい国によって分かれていて、それぞれはそれぞれの問題を抱えながら、それぞれの知恵を絞って生き残らなくてはなりません。そんな中で山林しか資源がないという、貧しい国が飛騨(ひだ)でした。政庁では国家を支える重大な財力となるものを持っているかどうかということで、国を上中下に分けていたのですが、飛騨はその中でも、ほとんど資源を持っていない国だったので、下下の下国と蔑まれていたのです。それほど貧しい国として捉えられていたのですが、そこに住む者たちは、資源が森林しかない、生きることすら困難な環境と戦いながら、やがて彼らはその貧しい土地から生きる知恵を生み出したのです。

朝廷が祖・調・庸・という税収の目安としていた、国別の格差を次のような表を作っていました。

大国 

大和 河内 伊勢 武蔵 上総 下総 常陸 近江 上野 陸奥 越前 播磨 肥後

上国 

山城 摂津 尾張 参河 遠江 駿河 甲斐 相模 美濃 信濃 下野 出羽 加賀 越中 越後 丹波

但馬 因幡 伯耆 出雲 美作 備前 備中 備後

安芸 周防 紀伊 阿波 讃岐 伊予 筑前 筑後

豊前 豊後 肥前

中国 

安房 若狭 能登 佐渡 丹後 石見 長門 土佐 日向大隅 薩摩

下国 

和泉 伊賀 志摩 伊豆 飛騨 隠岐 

 この中から飛騨は「下下(げげ)下国(げこく)」と蔑まれていたほどで、森林以外に暮らしの術を持たない民は、仁徳天皇の時代に地元の有力者であった両面宿儺(りょうめんすくな)という怪人を押し立てて、朝廷軍と戦ったことがあったほどですが、やがてその森林しかない土地であることを逆手にとって、生きる手立てを見つけて知恵を磨き始めたのです。

 こんなお話を現代の問題として取り上げたのは、それなりに意味があります。

 国によって税の比率が違うことが第三章「時代の変化に耐えるために」「その三の六」の「遣唐大使の要求に小野篁拒否」の文書の記録の中に、その税率の実例が書かれています。どうぞご覧になって下さい。

温故知新(up・to・date)でひと言

飛騨国の者は周辺にいくらでもある森林を使って、交錯する知恵と技術を磨き、飛騨(ひだ)の匠として飛鳥の都へ出て行くようになり、朝廷が立ち上げる皇室の宮殿建設に携わるようになり、その技術が認められるようになり、弥陀の匠としての特異さが認められるようになり、飛鳥から奈良に向けて、都へ出て特別な技術者として朝廷に採用されて宮殿建設に重用されるようになったのでした。敢えてこのようなことを取り上げたのには、それなりに意味があります。貧しい環境であるために、その貧しさを活かして樹林を活かした技術を身に付けていったということを知って頂きたいのです。

 現代の人々は、困ったことがあれば直ぐにインターネットで検索をしてしまいますし、簡単に答えを手に入れて満足してしまいます。それはそれなりに意味はあるのですが、その簡便さのためにそれぞれの人が、それぞれ独自のアイデアを生み出すことが出来なくなってしまっているのです。ちょっと前まではいろいろな時に知恵を出して問題を解決してしまう人のことを、引出しの多い人として評価をされるし、尊敬されました。みな同じ知恵を共有することも作業を進める上では役に立ちますが、それでは結局それ以上の結果を生みだせません。その人なりの知恵の引き出しを沢山持っていることが勝負の分かれ目となります。さまざまな国から、下下(げげ)下国(げこく)などと蔑まれていた飛騨から、飛騨の匠をという特異な人々が誕生させたには、その貧しい環境である原点であった、樹林しかないという弱点を長所に変えていってしまった智慧の勝利だと思うのです。何でも都会へ出ていかなくては成功しないという偏見は捨ててみましょう。古来「桂玉之艱(けいぎょくのかん)ということが云われます。きわめて物価の高い都会生活をしたり、学校へ通ったりすると、却って苦しむということです。たしかにそんな要素がありますが、育ったところの環境を思い、その環境を活かして、他の人にはない知恵を磨いてみませんか。それがきっかけで、立身出世して都会で尊重される技が活かされて、再び生まれ故郷へ帰ることもできます。まさに「衣錦還郷(いきんかんきょう)ということです。飛騨の者たちは生まれた土地の貧しさ、不自由を逆手にとって、生きる知恵を身に付けて、飛騨の匠という特異な技術者としての地位を確立したのです。都でも尊重されました。まさに生きるものは環境に最も適した者が生き残り、そうでない者は滅びるということを表した「適者生存(てきしゃせいぞん)という言葉の証明をするかのように、古代の飛騨国は存在したかのように思えてきます。この機会に、もう一度身の回りの環境が活かせないかどうかを考えてみてはどうでしょうか。


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