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閑話 嵯峨天皇現代を斬る その六の七 [趣味・カルチャー]

      第六章「非情な現世を覚悟するために」(七)


        為政者の課題・「神を利用するな」


弘仁三年(八一二)嵯峨天皇にとっては政庁を率いるようになって三年目のことです。


 嵯峨天皇はさまざまなことに余裕を持って為政を率いるようになっていらっしゃいましたので、早春には神泉苑へ行幸されて、文化人たちと共に花宴を開かれ、詩を作ったりして楽しみました。この時の催しが、花宴の始まりであったといわれているのですが、これまでの天皇とは確かにひと味違っています。


平安宮の改革にも手をつけられ、それまで日常お使いになっていらっしゃった正寝(おもて御殿)は、仁寿殿といって紫宸殿の北にあったのですが、その西に清涼殿をお造りになられて、休息を兼ねて日常の生活をなさる所として、仁寿殿と交互に使われるようになりました。それともう一つ、平城天皇の退位なさった時の教訓でしたが、お住まいになる「院」というものが存在していなかったということです。そのことについては、第二章「安穏な暮らしを保つために」「その二の一」「戦力の不足を知る」の閑談で詳しく書いてありますのでご覧下さい。


 天皇は巷の様子を見届けながら、さまざまなことに目配りをしていらっしゃるのですが、神仏に関わる者たちには、決められたことはきちんと守るように、毅然とした姿勢をお示しになられました。 


為政者・嵯峨天皇


弘仁三年(八一二)二月十二日のこと


発生した問題とは


 いつの時代になっても、社会的に不安のある時などになると、どういう訳かおかしな神様が登場してきて、何かと不安を抱えている庶民を、巻きこんでいってしまうことがありますが・・・。


 天皇は大変気になることがありました。神仏に関することで次々と指示をされています 


「近年、諸寺の僧尼は多数に上り、うわべは真面目に修行しながら、実は戒律を守らず、きちんと精進しないで、しばしば淫犯をなす者がいるという。取り締まるべき僧綱は、阿って取り締まらず、役所の方も糺すことをしていない。また、法会で懺悔を行うに当たっても男女が混雑して区別なく、挙げきれないほどの非礼の行動がなされている。これほど仏教の教えを破り、風俗を乱すものはない。永くこの弊害のことを思うと、懲粛しなければならない。そこで、京職と諸国に命令して、部内の寺・道場などのすべてに立て札を立て、淫犯の類を禁断せよ。もし、禁制を守らず、男女別であるべきところへ一人でも混入するのを容認すれば、三綱(儒教で社会の根本となる君臣、父子、夫婦)と混入した者らには違勅罪を科せ」(日本後紀)


いかにしたら為政を落ち着いた状態にしておけるかということに腐心していらっしゃるのです。社会の乱れがやがて為政を乱すことになるということを恐れていらっしゃることからでした。それでこれまで秘めておられた心情を、朝議において示されたのです。


 「近頃、多くの僧侶が法律を犯しているが、薬傷は放置して戒律に委ねるのみで、取り締まりを行っていない。国法が蔑にされ、深刻な弊害となっているので、今後は、僧侶が罪を犯したならば、軽重を問わず、すべて僧尼令により糾せ」(日本後紀)


この頃は雨期だというのに雨の降らない日がもう十日も続いているのです。その影響で京中でも米価が高騰してしまうのですが、官の倉庫の米を放出して低価格で貧民に売却することで救済いたします。天皇は田畑のことを思って心を痛め、ひたすら神霊の助けによって早くいい雨が降ってほしいと、急いで畿内の神社に奉幣せよと指示いたしました。神仏の霊威に対して絶対的な信仰を寄せておられる天皇は、大変神経を使っていらっしゃいます。


 「封戸(神戸(じんこ))を与えられている神社では、神戸が修造に当たるが、封戸のない神社では修造に当たる者がいない。今後は禰宜(ねぎ)(はふり)(神官)が修造に当たるようにせよ。小さな損壊が出来するたびに修繕し、怠って大破に到ることのないようにせよ。国司が頻繁に巡検すべきである。もし、禰宜・祝らが任務を怠り破損が出来した時は、解任せよ。有位の禰宜・祝は位記を没収し、無位無官の者は(じょう)百に処せ。国司が巡検せず、破損した場合は、交替のときに解由を拘留せよ。ただし、風災・火災などの非常の損に遭い修繕できないようなときは、言上して判断を仰げ」(日本後紀)


 いかにしたら為政を落ち着いた状態にしておけるかということに腐心していらっしゃるのです。社会の乱れがやがて為政を乱すことになるということを恐れていらっしゃることからでした。それでこれまで秘めておられた心情を、朝議において示されたのです。


 「伊勢国の神郡(しんぐん)である多気(たけ)渡会(わたらい)両郡および飯高(いいたか)飯野(いいの)等七郡の神戸百姓(ひゃくせい)らは正税(しょうぜい)の授受・返納過程での不正や遅延があると刑罰が加えられ、これにより、神事執行に当たって円滑な決済ができなかったり、逃亡する仕儀となっている。このため、以前から出挙を停止しているが、公出挙(くすいこ)に与かれないため民は富民(ふみん)から稲を借り、返済する額は元本の数倍にもなっている。このため、違法な出挙を行う者は犯罪者となり、返済する側は弊害を受ける事態となっている。そこで、らいねんからはじめて(しん)(ぜい)の他に、正税十三万三千束を出挙し、その利息は斎宮の経費に充てよ」


(日本後紀)


 この頃は雨期だというのに雨の降らない日がもう十日も続いているのです。その影響で京中でも米価が高騰してしまうのですが、官の倉庫の米を放出して低価格で貧民に売却することで救済いたします。


天皇は田畑のことを思って心を痛め、ひたすら神霊の助けによって、早くいい雨が降ってほしいと急いで畿内の神社に奉幣せよと指示いたしました。


神仏の霊威に対して絶対的な信仰を寄せておられる天皇は、大変神経を使っていらっしゃいます。


夢中で朝廷を率いてこられたのですが、ふと、民は朝廷の為政についてどのような受け止め方をしているのだろうかと、気にされるようにもなっていらっしゃったのです。


すべて満足な状態ではなくなっていることは承知していらっしゃるのですが、そのような思いを抱かせるということは、やはり為政者の責任であると受け止めていらっしゃったのです。


天皇はそんな傾向を知っていらっしゃったので、神仏に関しての思いを政庁の中で徹底していかれたのでした。兎に角神仏に関しては、いい加減に扱ってはならないということです。


 「近頃は疫病と日照りが続き、人民は穏やかではない生活を送っている。静かにこのことを思うと、人民の苦しみが思いやられる。ところで、神祇には禍を転じて福となす働きがある。願わくは、神助けによりこの災禍を消滅できることを。そこで天下の名神に速やかに奉幣せよ」(日本後紀)


 天皇は指示をされると、大極殿へ出られて伊勢大神宮に奉幣されました。疫病と日照りからの救済を祈ってのことである。


これまで夢中で朝廷を率いてこられたのですが、ふと、民は朝廷の為政についてどのように受け止めているのだろうかと、気にされるようにもなっていらっしゃいます。すべて満足な状態にはなっていないことは、充分に承知していらっしゃいますが、不満であることはすべて為政者の責任だと思いがちなものです。


天皇はそんな傾向を知っていらっしゃったので、


 「聖人は怪力乱神を語らず。世を惑わす妖言の罪は重大であるが、諸国は民の狂言を信じて、しきりに報告してきたりするのだが、それらは天皇を批判する言葉であったり、濫りがましい吉凶の予言に関わったりしている。これ以上法や秩序を乱しているものはない。今後、百姓が濫りに神託を称するようなことがあれば、男女を問わず処罰せよ。ただし神託が明白で、しっかりした証拠があれば国司が調査の上で、事実を上申せよ」(日本後紀)


 いつの時代でもそうなのですが、不安が広がったりすると、なぜか神頼みの気分が生まれ、そんな心理状態を利用して怪しげな神様が、あちこちに誕生してしまいます。これは決して古代の問題ではありません。現代の我々の問題でもあるのです。


 いつの時代になっても、何かと不安を抱えている庶民を巻きこんで行ってしまう怪しい神様が登場します。よく噂の真相を突き止めないと、神を使った者の話術に騙されて、その渦の中に巻き込まれていってしまいます。


温故知新(up・to・date)でひと言


 よく話題になることですが、四字熟語では「街談巷説(がいだんこうせつ)といって、巷に渦巻く噂話。根も葉もない噂などに慌てふたむいて、「周章狼狽(しゅうしょうろうばい)してしまって適切に処置できなくなってしまったりしたら、まさに「矮子看戯(わいしかんぎ)ということになってしまいます。物事を判断する見識のないまま、付和雷同してしまうということです。噂の渦に巻きこまれてしまって、偽の神様の思うが儘に利用されてしまいます。兎に角時代が不安になった時には、インチキ神様が絶えず登場して、迷っているものを探してさまよい歩きます。どうか迂闊にその魔力にひっかからないで下さい。地道に努力を積み重ねることが大事です。



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