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閑話 嵯峨天皇現代を斬る その五の四 [趣味・カルチャー]

      第五章「決断の時を誤らないために」(四)


        為政者の課題・「連携して取り締まれ!」


 


承和六年(八三九)の話です。


仁明天皇(にんみょうてんのう)にとって即位から六年後のことです。


正月を迎えたばかりだというのに、前年の暮れに、海難にあって破損した遣唐使船への参加を拒否した小野篁(おののたかむら)に対しては、天皇の命に背いたことで死刑という声もありましたが、極刑は逃れたものの佐渡国への流刑ということになってしまいました。


天皇にとっては、あまり気持ちのいい年明けではありません。


 「聞くところによると、諸国に疫病が発生し、百姓が若死にしているという。天下の国分寺に命令して、七日間『般若経』を転読し、併せて僧侶と医師を遣わし、それぞれの手段により治療と養生に当らせよ。また、郷里(ごうり)に指示して、季節ごとに(つつ)んで疫神を祀らせよ」(続日本後紀)


 報告があると直ちに指示をしたり、その後の遣唐使船の様子も気になります。


 


 「遣唐使の乗る三船が風波の難に遭う恐れがあるので、五畿内・七道諸国及び十五大寺に命じて『大般若経』および『海龍王経』を転読させ。遣唐使が帰朝するのを待って、転読を終えよ」(続日本後紀)


 気にしなくてはならない問題がかなりあります。


馬寮(まりょう)出火があったり、器物が破損して落下するということが起ったりするのです。


そんなところには、兵部省からは次のようなことを言ってくるのです。


「年来競馬(くらべのうま)の際に、王や非参議、また四位以上の者の競争馬が順番によらずそれを飛び越えて出走することがあります。人が順番を無視することがあれば、馬が勝手に出走してしまうこともあります。前後を乱して馬が走り出すのは抑えがたいことです。そこで、競走馬が馬場の南端に来ましたら、馬牽(うまひき)の者に馬の轡をとらせ、出走の順序に従って発進させ、その馬が失踪中は次の馬を留めおくようにすることを要望します。まずは勝手に動く馬を(ただ)し、動き止めれば秩序立ち朝廷の儀礼がしっかりしたものになります」(続日本後紀)


世の中の落ち着かない世相に合わせるような馬の動きも気になるのでしょう。諸国に疫病が発生して、百姓が若死にしているともいいます。その対策に腐心しなくてはならなかった上に春になると災異が起こるといわれている災星がしばしば現れ、地震もしきりに起こります。


そんなところに遣唐使船から、何人もの逃亡者が現れたという困った知らせが飛び込んできたりします。ところが四月には陸奥国で朝廷に背く動きがあり、千人を超える兵を動員しなくてはならないようなことが起こったりします。


為政者・仁明天皇(にんみょうてんのう)


承和六年(八三九)六月六日のこと


発生した問題とは


気の休まらないことが多すぎます。世の中がどこか鬱陶しい雰囲気に包まれていました。そのためかこのところ平安京にも、頻繁に物騒な事件が起こっているのです。


今上は騒がしい世の中を鎮めようとするために、次のような指示をされます。


 弾正台(だんじょうだい)(京内の官人の綱紀粛正を司る所)と検非違使はそれぞれ異なる官司であるが、法律違反者を捕え裁判する点で相違しない。ただし逃亡する犯人や逃げ隠れる悪者を追捕するとなると、弾正台は力不足である。今後は違反者を追捕する時は、弾正台と検非違使が通報し合い、検非違使の看督長(かどのおさ)らを遣わして実情に応じ追捕することとして、これを恒例にせよ」(続日本後紀)


 厳しい指示をしたのでした。


 この頃平安時代ではどうだったのでしょうか。取り締まりをする者同士の協力という問題です。


現代ではそれは警察に頼るしかありませんが、時に地域の縄張り争いで、協力し合えないという問題が浮上したりすることがあります。


為政者はどんな対処をしたのか


天皇は畿内の国司に対して蕎麦の栽培を奨励したりもされるのですが、そんな八月に、頼りにする嵯峨太上天皇が病臥してしまわれたのです。


時代は承和七年に変わりました。


世相は次第に荒れてきていて、平安京では群盗が跋扈(ばっこ)するために、朝廷は六衛府に対して夜間の巡邏を命じたりするようになっていたのです。


 「聞くところによると、悪事をする者が多く、深夜に放火したり白昼でも物を奪っていくという。静かにこの悪しき風潮を思うと、人を溝に押し込め、苦しめている思いを強くする。左右京職(きょうしき)・五畿内七道諸国に命じて、厳しく取り締まり、村里を捜索して遅滞なく身柄を捕えよ」(続日本後紀)


天皇は犯罪の取り締まりを指示なさる一方、高齢で隠居(生業がなく生活する)している者や飢え病んでいる百姓たちに、物を恵み与えたりしていらっしゃったのです。


 「国家が盛んになるために肝心なのは、民を富ますことであり、倉が充ち足りるようになるのは、真に稔りがあればである。去年は干害(かんがい)となり穀物は稔らず百姓は飢え、国用に不足をきたした。災異の出来(しゅったい)は天によるとはいえ、人民が愚かで怠惰であることを恐れるものである。現在、季節は春で、農事の始まる時期に当たる。今が、勧農を行う適時なので、五畿内諸国に命じて、農事について戒め、時宣に応じた対処をして、怠ることのないようにせよ」(続日本後紀)


 天皇は身近なところにも怠惰な暮らしぶりを感じられて、三月には気持ちの引き締めを図ろうと檄を飛ばされました。


「近頃、風俗はすたれ、衰微の様相となっている。物を消費するにあたっては、倹約が大切である。今後は、女子の()(スカート)は、夏の紗を用いたものと冬の中裳(なかも)(裳の下に着用する下着)は身分の高下を問わず、すべて禁止すべきである。裳は一つ着ければよく、重ねて着用してはならない。京および五畿・七道に対し、右の指示に従い、禁断させよ」(続日本後紀)


 宮中での贅沢を戒めたり、陸奥国では朝廷に背くような動きがあって援軍二千人の兵を送らなくてはならないようなことが起こったりしていましたので、鎮守将軍に対しても指示をしなくてはなりませんでした。


この頃庚申(こうしん)の夜には、人身の中にいる三尸(さんし)道教で腹中に棲む虫)というものが、寝ているうちにその者の罪を天上の神に報告するというので、その被害に遭わないようにするには寝ないでそれを阻まなくてはならないのです。


ところがこの庚申信仰をいいことにして、このところ深夜に出回る者が多くなっていて、その取締りのために苦労したのです。


ひと言でいえば実にいやな時代ですが、ここで注目したいのは、犯罪に対する監視です。世の中がどこかすっきりとしない時には、とても常識では考えられないような事件が発生するものです。現代で取り上げる問題として充分に納得できるでしょう。


昨今の世の中を見ていると、とても常識では考えもしないような事件を起こす者が次々と現れています。時代が悪の温床となっているのか、歪んだ時代が悪魔的な人間を送り出すのか判りません。


世界を震撼とさせるような犯罪者が現われないことを祈りたいと思います。


この年左近衛府からこのようなことが進言されました。


 近衛の補任のことについて申し上げます。春宮坊(とうぐうぼう)皇后宮(こうごうぐう)中宮(ちゅうぐう)(ここでは皇太后宮)の舎人や内匠・木工・雅楽寮の考人(四等官より下の下級職員で、成績評価の対象となる人たち)は見な内考(ないこう)(叙位に要する考課年限が内官(京官)扱いされているもの、内考(ないこう)の対が外考(げこう)で、外考は内考より考課年限が二年長い)扱いとなっています。近衛府ではこれらの人の中から才能の有無を試験して近衛に任用してきましたが、今回、兵部省はこれまでの近衛採用方式による任用を差し戻して、大同元年挌によれば、蔭子孫(五位以上の子・孫)・式部・兵部両省詰めの散位(さんに)位子(いし)(内八位以上の嫡子)・留省(るしょう)・勲位等については近衛府試験して採用してよいが、外考・白丁(はくちょう)は勅使が試験した人たちは、格が挙げている蔭子孫以下とは異なっており、外考・白丁に準じて勅使が再度試験することにする、と言ってきました。しかし、三宮(さんぐう)太皇太后(たいこうたいごう)、皇太后、皇后宮)舎人と種々の戸籍による身元調査をした上で採用する(かん)籍人(じゃくにん)は、すでに内考扱いとなっていますので、どうして白丁に準ずることになりましょうか。また、格では大体を定めて、細かな事項については言っておりませんのに、兵部省は格の文字面(もじづら)に拘泥して、従来の慣行に背いています。太政官は、武術に優れた者について、従来どおりの方法で近衛府が試験し、近衛に任用してよいと決定しました。


 役所による人材の採用についての功名争いの一端が知れる資料です。現代でもよくあることではありませんか。古代においても、優秀な人材は欠かせない時が訪れてきていたようです 


温故知新(up・to・date)でひと言


 現代では町の安穏のために尽くしていらっしゃる警官が襲われて死亡したり、通学する小学生を守ってくれている警備員が狙われたりと、嫌な事件がつづきました。


そうでなくても、誰でもいいから襲いたかったなどという、身勝手なことをいう不心得者が登場してきます。


社会ルールからはみ出てしまう者については、ただ放置しておくしかないのでしょうか。ごく限られた人ということで、放置していることはできませんが、社会が生み出したものだという非現実的な論調では済まされない問題ですね。


温故知新(up・to・date)でひと言


四字熟語では「天網恢恢(てんもうかいかい)というように、天は必ず悪人を逃さないと言いますが、天の法の網も広大で目も粗いとしか言いようがありません。しかしそれでも決して漏らさず悪人は捉えられます。「波乱万丈(はらんばんじょう)で事件などの変化が激しい、変転極まりない人生ですが、あくまでも「勧善懲悪(かんぜんちょうあく)であり続けたいですね。善行を勧め励まし、悪事を懲らしめるということです。正しい公正な世の中にするには、是非ともこれを実践しなければならないのですが、しかしこの当然のことがなかなかできないのが現実です。



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