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閑話 嵯峨天皇現代を斬る その六の四 [趣味・カルチャー]

   第六章「運気の悪戯だと思うために」(四)


    課題「ものの怪と太陽の異変」


 まだ現代科学のような先進的な知識のない古代では、天空に起こる現象については、神仏に祈る意外にまったく手出しのできないことでした。中でも月と太陽については驚異の現象でしかなかったのですが・・・。


為政者・仁明天皇


承和十年(八四三)五月八日のこと


発生した問題とは


 三月に神功皇后(じんぐうこうごう)楯別山稜(たてなみさんりょう)陵守(みささぎもり)が次のようなことをいってきました。


 「先月十八日の午前八時頃、山稜が二度鳴りました。雷鳴のように響き、それと共に赤色の気体状のものがつむじ風のように南を指して飛んでいきました。午後四時頃再度音がし、気体状のものが西を指して飛んでいきました。参議の正躬(まさみ)王を遣わして調べてみると、山稜の木七十七本と無数の若枝等が伐られていました。そこで陵守長百済春継(くだらはるつぐ)を処罰して天皇に報告しました。それからまもなくのことです。陸奥(みちのく)国からこんなことをいってきました。


 諸軍団の軍毅らが、


「兵士は一年に六十日兵役につき、六番に分かれて、十日ごとに交代しています。食料は自弁で城柵に詰めるに当たり、遠方から出仕しますので、常に往復に疲弊し、在宅日数も少なく、生業をこなすことができません。このため逃亡する者が多く、民は動揺しています。そこで兵士を千人加増し、元の兵士と併せて八千人とし、八番に分け、六番から八番へ番の数を増やすことにより、疲弊した兵士の負担の軽減を要望いたします。ただし、軍団数を増やすことなく、増員した兵士は従来の軍団にあまねく配分したく思います」(続日本後紀)


と言ってきた。


 政庁はそれを許可したのですが、今度は式部省からこんなことが訴えられたのです。


 「従前勘籍人(かんじゃくにん)(戸籍により身許を調査した者)を諸司の番上や諸衛府の舎人に任用してきましたが、事情を検討しますと、官人身分取得を目的に任用を求めているのが実情です。官人身分の取得が困難なのは久しい以前からのことですが、当今に置いては、任用されていた者は一選(勤務成績による叙位のために必要な年限。選叙令に規定されている)を勤務した後、他の官職へ遷ることができるようにしますよう、要望します」(続日本後紀) 


 政庁はそれも許可いたしました。


 するとまた陸奥鎮守の御春(みはる)浜主が、次のようなことを訴えてきたのです。


 「健士(けんし)は元来爵位を有する者です。調庸の負担がなく鎮守府では、これまで武芸に優れた者を選び健士と名づけ、食料を支給して田租を免訴し、番をなして兵役に当たらせてきました。しかし現在、勲位は一人もおらず、建士に充用することができません。そこで、格旨により白丁を動員し食料を支給して調庸を免除扱いとしたいと思います。人にはそれぞれ役割がありますので、射が下手な健士は、下手な兵士に准じて、城の修理に使役したいと思います」(続日本後紀)


 人事的な問題が次々と持ち込まれている政庁ですが五月になると、また人智ではどうにもならない、気になることが報告されるのです 


為政者はどう対処したの 


 太陽に光りがなく、終日回復しなかったのです。雲でも霧でもない黒い気体状のものが天に広がり、正午過ぎになって時々日が射したが、陽光は黄色がかった赤色でした。神祇官(じんぎかん)陰陽寮(おんようりょう)に命じて、昨日の気体状のものに謝せしめた。本日正午ごろ陽光が明るさを取り戻したのでした。しかしそれから数日後に内裏の物の怪と太陽の異変を鎮めるために、百人の僧を呼んで三日間「薬師経」を清涼殿で読み、薬師法を常寧殿で修し、「大般若経」を大極殿で転読(経文の初・中・終わの要点だけを略読する)した。


 何も起こらなければいいのですが、用心しているのにそれから間のなく、犬が天皇の座の前の参議以上の者の座の近くまで上がると、反吐を吐き尿をしたりしてしまったといいます。


 何か異常なことが起こっています。


 不安が現実になったのは、一ヶ月ほど経った頃のことですが、伊賀、尾張、参河(みかわ)、武蔵、安房(あわ)上総(かずさ)下総(しもうさ)、近江、上野、陸奥(みちのく)、越前、加賀、丹波、因幡、伯耆(ほうき)、出雲、伊予、周防など十八国に飢饉が発生して、天皇の命によって物を恵み与えた。七月には嵯峨太上天皇の一周忌が行われました。しかし祖霊の遺詔によって、民間の俗事に拘泥してはならないということで、葬儀には三日以上かけてはならないというのです。丁度この頃仁明天皇は発熱しているために相談するわけにもいきません。 天空の異常現象の影響が及んできているのでしょうか、不安が広がったのでした。


 こんな現象自他が、現代ではただ単に話題になるだけで、それで治国を危うくしてしまうようなことはありません。天文マニアを喜ばせるだけでしょう。


温故知新(up・to・date)でひと言


 しかし昨今の異常気による被害の広がりがつづく状態は、人智では解決のしようのない問題で、それは古代と何の変りもありません。流金焦土(りゅうきんしょうど)ということがいわれますが、炎暑の激しいたとえです。金属をとかし、大地を焦がすような暑さだということですが、すでにほとんどの方が実感されたのではないかと思います。卵をかさねたように非常に不安定で、危険な状態であることをいう累卵の危(るいらんのき)という言葉がありますが、そんなことが引き金になるのでしょうか、古代では物の怪が出没するのです。正に神出鬼没(しんしゅつきぼつ)です。正に神わざで、どこでも自由自在に出没してきます。現代では地球規模という広がりの中で、地球温暖化に向かい合わなくてはならなくなっているように思います。兎に角天空に起こる異変が、あくまでも地球を危うくするようなものでなく、天文ショウとして楽しめるようになって欲しいと思うのですがどうでしょう。



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